ジャーヴィス・コッカー(PULP)さんとイエロー・モンキー


WHAT’s IN?ES(1996年/ソニーマガジンズ)に掲載された、PULP・ジャーヴィス・コッカーさんのコメントをご紹介します。90年代にイギリスでブレイクし日本でも人気を博したバンド・パルプについて、ロビンはブレイク前から注目し「好き」と公言、アルバム「コモン・ピープル」にコメントを寄せています。この対談は、パルプが日本に初来日した際のものです。

吉井:まずは、日本に来れておめでとうございます。

ジャーヴィス:ありがとう。ここに来るまでがすごく長い道のりだったんだけど、まさに期待どおりというか。長い間行きたいと思っていても実際行くと期待外れってこともけっこうあるから、そういう意味では今回の来日はすごく満足いくものだったよ。

吉井:昨日のコンサートも最高によかった。眠れなかったよ(笑)

ジャーヴィス:それは興味深いね。どうして眠れなかったの?

吉井:あのね、眠ってたものを覚ましてくれるんだよね、パルプは。体の中の潜在意識を。そして勇気が出る(笑)

ジャーヴィス:それはよかった。どうもありがとう。

吉井:俺が初めてパルプを知ったのは2年前のテレビ番組だったんだけど。テレビ・ショーのライブで「ラズマタズ」って曲をやってて。すぐ自分と同じものを感じちゃったんだよね。当時うちのバンドも売れてなくて。言い方悪いけど、パルプも人気がなかった。

ジャーヴィス:まさしくそのとおり(笑)

吉井:ライナーにも書いたんだけど、ジャーヴィスはまさしく俺の兄貴に違いないと思ったんだよね(笑)

ジャーヴィス:それは面白い意見だね(笑)

吉井:それで次の日、CD屋にパルプを探しに行ったんだけど、なかったの。

ジャーヴィス:うん、当時はたぶんイギリスのレコード店でもなかなか見つからなかったんじゃないかな。

吉井:「フリークス」ってアルバムがあって。でもどうしても「ラズマタズ」が聴きたくてね。アナログ盤は売ってたけど、俺はレコード・プレーヤーを持ってなかったから、友達の家で録音してもらって(笑)

ジャーヴィス:ずいぶん大変な思いをしたんだね(笑)。「フリークス」は10年前のレコードなんだけど、僕があまりハッピーじゃなかった頃の作品なんだ。今はもっとハッピーだけどね。

吉井:その後、俺たちも日本で売れて、パルプも去年の夏に俺たちがイギリスに行った頃にはもうブレイクしてたから、すごくうれしかった。

ジャーヴィス:イギリスでライブをやったんだって?

吉井:うん、オレンジっていう小さなクラブで。俺たちが帰った日にパルプがロンドンでコンサートやってたの。7月だったかな。

ジャーヴィス:イギリスのオーディエンスってどうだった?

吉井:おとなしかった(笑)

ジャーヴィス:あまりバンドが行かない北部に行った方が盛り上がったかもしれないよ。ロンドンの人っていろんなバンドを見慣れてるから、どうしても斜に構えて見ちゃうところがあるから。

吉井:そう、その時どうしてもパルプのコンサートが見たくて。当時は来日の予定もなかったしね。だから本当に今回の来日はうれしいよ。

ジャーヴィス:僕らにとってはとても驚きだったというか、日本のオーディエンスの反応の良さにすごくびっくりしたんだ。新しい国に行くと、その国のバックグラウンドもあるし、文化の違いもあるから、必ずしも良い反応が得られるとは限らない。そういう心配があったから、今回は本当に良かったと思ってる。

吉井:他のバンドだとああならない場合も多いんだよ。だからたぶんね、僕も含めてそうなんだけど、パルプは日本人が好きな部分をすごく持ってるんだと思う。

ジャーヴィス:それって何なんだろうね(笑)。僕らも来日経験のある他のイギリスのバンドから、日本に行ってオーディエンスが静かでも心配するなと言われてきたんで、あんなにみんながジャンプしたり、すごい反応が来るとは思ってなかったよ。

吉井:それ、誰に聞いたの?

ジャーヴィス:ブー・ラドリーズとか。

吉井:はははっ。確かにあんなに盛り上がるライブって珍しいかも。ところで、イエロー・モンキーって聴いてくれた?

ジャーヴィス:今ホテルにCDプレーヤーがなくて、まだ聴いてないんだよ。CDは持ってるから、イギリスに帰るまでに聴きたいと思ってるんだけど。

―ぜひ聴いてみてください(笑)。吉井さんは日本でパルプにいち早く注目してた人なんだけど、彼らのどこがそんなに魅力だったのか、どんなところに共感したのかを教えてもらえますか?

吉井:センチメンタルで、だけどさっきも言ったように勇気が出る。そこが自分たちのバンドとすごく共通してて、いつかこういうのが受け入れられる時代が来るはずだと思ってた。言い方は悪いけど、イギリスのイエロー・モンキー、日本のパルプなんじゃないかと。

ジャーヴィス:(頷きながら)ここ2年間ぐらいでイギリスの音楽シーンもだいぶ変わってきて、人々が求める音も変わってきたんだよね。今まではあまり表情のないバンドが多くて、それがだんだん表情豊かになっていったような気がする。

吉井:うん、日本もまったく同じ状況だと思う。

ジャーヴィス:観客がステージでパフォーマンスしているアーティストのパーソナリティをちゃんと感じ取れるようでなければ本当じゃないと思うんだ。

吉井:初めてテレビ・ショーでパルプを見た時、ジャーヴィスの目を見て、この人は信じられると思ったんだよね(笑)

ジャーヴィス:(驚いたような照れたような表情を浮かべて)歌というのは、自分の人生そのものを表現するものであって、観客はきっと歌っているものを見て、それが真実なのかどうかを感じ取るんだと思うよ。

吉井:うん、そう。それと同時にね、すごく“モード”だったんですよ。プロモーション・ビデオとか、今ほど洗練されていなかったけど、ダブルのピンストライプのスーツを着てて…

ジャーヴィス:オー、イエス。まだ持ってるよ(笑)。それはね、けっこう問題になってるんだ。日本ではどういう状況かわからないけれど、イギリスでは自分たちのルックスとかレコード・ジャケットに気を遣うと、音楽に専念していないと思われる傾向があって。本当は一番大切なのは音楽なのに、音楽が重要視されなくなってしまうんだ。僕自身はすべての面で気を遣わなければならないと思ってる。だって曲というのは、自分の人生とか、自分の持ってる希望とか、全部を投影してるものだから。だけどそういうふうにすると、マスコミとか業界の受け入れ方が変わってきてしまうんだよ。

吉井:逆にね、そのストライプのスーツはくたびれてたの。そこが好きだった。人間が見えたっていうか。

ジャーヴィス:古着だったんだよ(笑)

吉井:うん、それは見ればわかる(笑)。そこが逆にモードだったんだ。

ジャーヴィス:古着ってけっこう好きなんだよね。前にどんな人が着てたかって想像できちゃうし、頭の中でこの人はどういう人だったのかっていうストーリーができあがってしまうんだ。それに関する曲を書くのもいいしね。

吉井:うちのバンドもイギリスに行った時、相当な量の古着を買って帰ったよ(笑)

ジャーヴィス:日本にもいっぱいあるじゃない?

吉井:でもすごく高い。

ジャーヴィス:フム、それはそうだね、

吉井:子どもの頃はどんな音楽を聴いてたの?

ジャーヴィス:母の家にビートルズのアルバムが3枚あって、それが一番まともな音楽だった。あと、ラジオもけっこう聴いてたな。

吉井:グラム・ロックは聴かなかった?

ジャーヴィス:グラム・ロック???

吉井:T・REXとかデヴィッド・ボウイとか。

ジャーヴィス:オーイエス。僕はとにっかう12歳の時にテープレコーダーを買って、ラジオのチャート番組からいろんなロックを録音して聴いてたんだよ。

吉井:あんまりお金がなかったな(笑)

ジャーヴィス:うん、なかった。新聞配達とかしてたよ。

吉井:初期のジャパンにも(パルプは)似てるんだよね。

ジャーヴィス:そのへんってずっと廃れてたけど、ここ最近ちょっと盛り返してきてるよね。

吉井:70年代後期から80年代真ん中くらいまでの音楽がすごくはやってる、っていったら変だけど、そういうムードがある。

ジャーヴィス:またデュラン・デュランとか聴き始めたりとかして。イギリスでも同じだよ。「ハングリー・ライク・ザ・ウルフ」みたいな曲とか、みんな聴いてるよね。

吉井:メンズウェアなんかまさしくジャパンみたい。ああいう女の子の騒ぎ方とか。

ジャーヴィス:うん、その共通性はよくわかる。

吉井:数年前まで日本では洋楽って廃れてたんだよね。でも最近はまた洋楽が相当日本のチャートに入っていたりする。僕ら洋楽ファンとしては、こういう状況はうれしいし。だから今回の対談もすごくうれしい。

―イエロー・モンキーとパルプ、両方聴いてる人って意外と多いと思うんですよね。昔は洋楽聴いてる層と邦楽聴いてる層がはっきりわかれてたけど、今ではけっこうクロスするようになってきた。そういう状況で、日本とイギリスから同じような匂いを持ったバンドが同時期に出てきたのが、聴き手としてはすごく興味深いんです。

ジャーヴィス:さっきも言ったように、80年代の楽曲がまた盛り返してきたり、今は音楽シーン自体が過渡期にあるよね。何千キロと離れたまったく違う文化の国で、同じような現象が起こっているというのは、すごく興味深いことだよ。目に見えない何かでつながってるんじゃないかって感じるんだ。個々にいろんな現象ってあるけど、それを全部合わせるとひとつの大きな絵になってしまうというか。みんなが同じアイデアみたいなものを共有してて、何かの電波でつながってるような、そんな感じを受けるんだよね。

吉井:はっきり言って日本のロックって、外国に比べてすごく遅れてたんだけど、今はもうそういうのもなくなってきてるし。日本人はいつもコンプレックスを持ってたんだよね。外国のロックに負けないようにって。

ジャーヴィス:日本のバンドで聴いたことあるのってBOWWOWぐらいだよ(笑)。何かのポップ番組に出てたのを見たんだけど、ディープ・パープルになろうとしているような感じで、すごく変だった。

吉井:ジャーヴィスはハードロックも聴いてたの?

ジャーヴィス:僕はあんまり好きじゃなかった。首が痛くなるからヘッド・バンギングもできないし(笑)

吉井:だろうね。(パルプには)アバは感じるんだけどね(笑)

ジャーヴィス:おー、アバ!大好き。素晴らしいよ、アバは。今度ツアーですぇーでんに行ったら、アバのメンバー何人かに会えるかもしれないんだ。ベニ―・アンダーソンって、かつてアバの作曲をほとんど手掛けてた人は、最近ちょっと変になっちゃって、鳥の声でできた音楽とか作ってるらしいよ。鳥たちがちゃんと音符どおりに歌えるようにトレーニングしているらしい(笑)

吉井:パルプは、これからどんなふうになれれば幸せなんだろう?

ジャーヴィス:いいレコードを作っていければいいと思っているけどね。今回の作品はすごく成功を収めたんだけど、レコードというのはその時代を反映したものだから、同じようにその時代時代を表現していけるものであればと思ってる。バンドって一度売れると安全パイを狙って前のヒットと似たようなものを書いたりするけど、僕たちはその時代を大切に生きたいから、もっと実験的なことをやったり、面白いことをやって、ひとつのルールにとらわれない、良い曲をつくっていきたい。

吉井:同感ですね。じゃあ、売れる前と売れた後では、心境の変化はあった?

ジャーヴィス:いくら良い音楽を書いてても売れていない、人にウケていない時っていうのは、自分がちょっと変なんじゃないかとか、自分自身の可能性に疑問を持ったりしがちだった。それが成功してからは、ちょっと気分がリラックスしたのか、自分は変じゃないんだ、べつに頭がおかしいわけじゃない、大丈夫なんだって、何か判を押してもらったような気分になったよ。

吉井:俺と同じこと言うね(笑)

WHAT’s IN?ES(1996年/ソニーマガジンズ)より抜粋
インタビューと文/かこいゆみこ

<記事内で登場した作品>

コモン・ピープル