運営者インタビュー(1999年)による、MV監督・高橋栄樹さんのコメントをご紹介します。高橋さんは「SPARK」からイエロー・モンキーのPVやライブ映像作品を多数手掛け、ロビンに「映像のイエロー・モンキーと思ってもらって構わない」(1997年、「BLUE FILM」「RED TAPE」「PURPLE DISC」発売記念イベントの挨拶より)と紹介されています。1999年に高橋さんが初監督されたイエロー・モンキー出演の映画「trancemission」が公開され、その時期に発行された音楽情報フリーペーパーに掲載されたインタビューです。「trancemission」や映画、音楽に対する思いを中心に、イエロー・モンキーについても語られています。
「ロックの持っている本質の“壊す”って部分を、ロックミュージシャン(イエロー・モンキー)が出ている映画でやらなかったら、それは音楽に対して失礼だと思った」
ーまず最初に、どうして映画を撮ることになったのかを教えてください。
「最初、TV番組やりませんか?って話をいただいて、30分の短いスト―リーでやろうかなって思ってなんですよ。それがある日『映画でいきませんか?』って」
ースト―リーは固まっていたのですか?
「それはいろいろ変遷してるんで、主人公が女だったりしたときもあったし、吉井さんだったときもあるし、色んなパターンがあるんですよ」
ー資料にウィリアム・バロウズの名前がありますが、影響を受けているんですか?
「そうですね、バロウズっていうのは“カットアップ”って手法が有名なんですけど、既成の文章を並べ替えてそっからまた違った意味を出すって人なんですけど」
ーSFの作品を作りたいと雑誌にあったのですが、こだわりがあるんですか?
「というか、何でもアリなんですよ僕の中では。全部の制約がない状態で考えちゃうんで。で、『これ、何て言います?』『もうSFでしょう』っていう」
ー映画の中でテクノが主に使われていますが、それは何故ですか?
「一つは好きだったから。映画よりも影響を受けてた時期もあるし。テクノのグルーヴっていうのは独特なやつがあって、それをまんま使った人ってそんなにいないから、何かやってみたかった。僕、何でもありの映画を作りたいと思うんで、何でもありの音楽ってどっちかっていうと、テクノの方が近かった」
ーラストのテクノにのせて映像がたくさん入っているシーンは、PVを作る感じで作ったんですか?
「えっと、PVっていろんなシチュエーションが入ってくるんで、多分僕の中でバロウズと直結してるとこがあって。つまり、複数のシチュエーションがカットアップされたものとして構成されてるっていうふうに思っちゃうんですよ。で、そのさらに一線を越えた状態が映画のクライマックスというか」
ーその映像はどうやって選んだんですか?
「あれはもう、直感もいいとこというか…カットアップって何なのかというと、人間の思考の漠然とした発想に近いと思うんですよ。僕ら頭の中で普段、取り立てて整合性のある考え方ってしないでしょ?だから何がどう必要かってことに関してはもう、直感的なことでしかないというか、音楽の“ジャーン”っていうのを録るときに、その音色を何で選んだのかなんて別に直感でしかないでしょ?それに近い感じ」
ー「SO YOUNG」のPVは、メインテーマに決まった後に撮ったんですか?
「そうですね。もっと言うと、映画の編集の途中で作りましたね」
ー「SO YOUNG」のコンセプトはそれまでのものと違って時間軸を大切にしたものということですが、映画のラストとリンクしているように思えますが…
「そうです、そのとおりです。『SO YOUNG』が映画の最後に流れる、でPVがある。で、PVの前って(イエロー・モンキーのPV作品集)『CLIPS2』じゃないですか。だから『CRIPS2』は多分、『trancemission』の本編にリンクした何かになっていて、終わった瞬間に『SO YOUNG』があるってことは等しいっていうか、多分そういうのになっている…」
ー映画のテーマとして「システムから逃れて自由でいたい」とありますが、監督にとって自由とは何ですか?
「それが分からないから、苦労してるっていうか。ただ、この映画のテーマでもあるんですけど、イエロー・モンキーが出演してるっていうことも関係あると思うんですけど、日本って、良いところも悪いところもあると思うんですよね。良いところは、僕も考えてるしイエロー・モンキーも実行してる部分であったりするじゃないですか。でも、その反対にダメな部分ていうのがあって。あの、日本ていう国はシステムって中では特殊だと思うんですよ。一個の村社会っていうことで、きちんとコミュニケーションしないまま、何となくやり過ごしていく…で、ただそれに巻き込まれていくと、結局、気づくと骨抜きにされてるっていう、ある意味巧妙なシステムっていうのを、僕は凄く感じるんですよね。基本的に意味のないことなんだけど、意味ありげに見せかけて、なんとなく『仲間になりなよ』って中で成立している村って気がする…嫌な部分だけをとると。そういう村の中にいてのんびりやるのもありだし、逆にそういうところから出て、きついけど自分で何か探すのも、大変だけどアリかもしれないし。どっちが本当の自由なのかは、僕にも分からないです」
ー別のインタビューで「まず『僕は壊す』ということをやりたかった」とあったのですが、これをもう少し説明してください。
「つまり、作品を作るにあたって、イエロー・モンキーが出演していることもあったんで、一般的なものを目指すのはやっぱり失礼かなって思ったっていうのが…やっぱりロックの本質って、“壊す”ことじゃないかと思うんですよ。ロックの持っている本質の“壊す”って部分を、ロックミュージシャンが出ている映画でやらなかったら、それは音楽に対して失礼だと思った。だから、いろんな意味で破壊力のある映画を作りたかったというか、映画っていうその現状のシステムに対しても異分子であるようなものを作らないといけないんじゃないかなって思ったんですよ」
ー客観的にこの映画を観て、どう思いましたか?
「面白いと思った(笑)でき上がった直後は良いのができたのか悪いのができたのかも分からなかったというか、全然、解放感がなかったんですよ。で、時が経って観直してみたら、こういうの観たかったなって、こういうの、もっとたくさんあればいいのにって思いました」
ーまた次を撮りたいですか?
「それはご縁があったらってとこですかね。やっぱり僕はPV専門にやってるんで、良いご縁があれば頑張りますという感じです」
ーありがとうございました。
運営者インタビュー(1999年)より
※高橋さんは、当時まだ学生でインタビュー経験が浅かった運営者の、本当に多くの質問事項に一つ一つ丁寧に答えてくださったことが印象に残っています。今回のサイト掲載にあたり、ご本人に許可をいただきました。この場を借りて御礼申し上げます。
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