橘哲也さん(SPARKS GO GO)とイエロー・モンキー


パチ・パチ・ロックンロール(1995年/ソニーマガジンズ)に掲載された、SPARKS GO GOのドラマー・橘哲也さんとのコミュニケーションをご紹介します。兄弟でギターとドラムを担当していることで兄同士、弟同士の対談が企画されました。こちらの記事は弟対談で、兄弟で同じバンドについて思うことや、それぞれの兄のことを語っています。EMMAと橘厚也さんの兄対談はこちら。

※氏名の表記は雑誌に記載のもの(当時のもの)を使用しています。

―前回(兄対談)はふたりのアニキ達が対談をやって、今回は弟対談だけれど、よろしく。

ANNIE「おもしろいけれど、ドラマー同士の深い話になったら、許してほしいですね。まず、橘さんは小学校のころにドラムを始めたって聞いたんですけれども?」

哲也「小学校6年生ぐらいですから、長いですね。でも、長けりゃいいっていうもんでもなでしょう」

ANNIE「いや、長い方がいい(笑)。やっぱり、なるべく早いうちに始めて、長くやっているほうがいいし。すごく、うらやましいですよ。今になっても、もっと早く始めればよかったと思っているんです。ボクは中学を卒業するころでしたから。でも、まわりの人たちよりも早く始めたから、周りの人たちよりもうまかっただろうし、一緒にやるメンバーが兄弟しかいなかったっていうのもわかりますね」

哲也「どうしても、そういうふうになりますよね。同じ世代で、“コイツと一緒にやりたいな”って思えるヤツがいなかったから。それで、アニキとやっていたけれど、オレ以外はみんな年上でしたね。だから、中学校のときに、高校の文化祭に出てましたよ」

ANNIE「じゃあ、同級生とバンドをやったこともないんですか?」

哲也「ないですね。でも、たまたまウチのアニキが高校を留年して、オレと同じ学年になっちゃって。そのとき、初めて同学年のヤツらとバンドができたっていう(笑)。でも、ウチのアニキはえらいんだか、頭が悪いんだかしらないけれど、留年してもちゃんと学校に行きましたよ。

―ところで、橘兄弟は1歳違いで、菊地兄弟は3歳違いだけれど、そこでずいぶん兄弟のあり方が違うんじゃない?

ANNIE「たぶん、橘さんは“アニキ”っていう感じでしょ。こっちは“おにいさま”っていう感じだから、なんだかんだ言っても。いっつも上にいて、絶対に横にいることはなかった」

哲也「そういえば、対等のところで話をすることが、けっこう多かったですね。その代わり、ケンカも多かったですよ。やっぱり、同じこと考えて、同じことをやろうとするじゃないですか。でも“一緒にバンド組もうか”って言いだしてからは、ピタリとケンカもしなくなりましたね。ウチのメンバーたちって、ケンカしないですね。意見のぶつかり合いは当然だけれど、感情的なケンカはない。まあ、メンバーのうちのひとりは肉親なわけだし」

ANNIE「八熊さんって、兄弟のなかにひとりだけ入っているけれど、そういう感覚ってどうなんでしょう?」

哲也「でも、小学校から一緒だから、兄弟みたいなもんでしょう。オヤジ同士も同じ職業だったりしたし」

ANNIE「よくインタビューで、“兄弟で一緒にやっていてどうですか?”とか聞かれて、“すごく小さいときからの、仲のいい友達とやっているようなもんです”って答えているんですよ。それが3人集まってやっているっていう感じですね」

哲也「親以上に、一緒にいる時間が長いから、いろいろと通り越しちゃっている」

ANNIE「ウチの兄弟は、ほとんど遺伝子が違うんじゃないかって思うくらい顔も似ていないけれど、橘さんはよく似ているでしょう。そうなると、好みとか考え方って似てきませんか?」

哲也「いや、アニキとオレとはかなり好みが違いますよ。ただ、女の子の趣味は、一時似ていたときがあった。高校のとき、アニキの学年に転校してきた女の子がいて、“かわいいな”って思っていたら、アニキの部屋に遊びに来てたんですよ(笑)。“コイツ、手が早いな”って思ったけれど、オレもそのコのことをいいと思ったわけだから、趣味が似ていたんでしょうね」

ANNIE「よく、双子なんかの場合、おたがいに差別化を計ろうとして、ぜんぜん違う方向に行くことがあるっていうでしょう。そういうことがあったんですか?」

哲也「ウ~ン。そういうのがあったかもしれない。だいたい、アイツのほうが先にギターを持っちゃっていたから。消去法でドラムを選んだっていうのはありましたね」

―アレッ?アニキ対談では、橘クンのほうが先にドラムを手に入れていたって言っていたけれど?

哲也「いや、楽器を手にしたのは、絶対にアイツのほうが先」

ANNIE「弟のほうが、アニキをよく見ているものなんですよ」

哲也「でも、アニキっていうのは、自分のことしか考えていないから、弟のことをよくは見ていない(笑)」

ANNIE「あっ、そうだ。ウチのアニキもそうだ(笑)。むこうにしてみると、“気がついたら弟があんなことをしていたんだ”っていう感じなんだろうけれど」

哲也「弟はアニキが怒られているのを見て、やっちゃいけないことがわかるし(笑)」

ANNIE「今回の企画の意味が、ようやく出てきたような気がしますね(笑)」

―たしかに。人間学的なテーマにまで踏み込んだよね(笑)。ところで、アニキを見て、“これはマネするのはやめよう”って思ったものはある?

哲也「それがタバコですね。隣の部屋に友達が溜まって、ガンガン吸っているでしょう。アイツら、窓を開けるから、オレの部屋に煙が入ってくるんですよ。別にタバコは嫌いじゃなかったんだけれど、服にニオイがつくし。学校に行けば、オレは吸っていないのに、疑われたりして。そういうのがあって、タバコを吸わなくなった」

ANNIE「オレは反発してそうなったっていうのは、ぜんぜんないです。さっきから思っていたんだけれど橘さんは“アイツ”だけれど、オレにとっては、“アイツ”じゃないから。ある種、うやまっているところがあるし。“お兄ちゃんはカッコイイ”ってなっちゃっているから」

哲也「いま、なんて呼んでいるんですか?」

ANNIE「“アニキ”ですね」

哲也「オレは“オイ”。呼び方からすると、ほとんど友達以下ですね(笑)」

ANNIE「昔は“おにいちゃん”って呼んでいたんだけれど、中学校にはいるときに“これから、なんて呼んだらいいかな”って、アニキに聞いたの(笑)。そしたら“アニキがいいかな”って言うから、ボクはアニキって呼ぶようになったんです」

―でも、最近は“EMMA”って呼び捨てにするらしいじゃない?

ANNIE「それはワザと(笑)。でも、だんだん年を取るにつれて、距離が近づいてきましたよ、きっと、いまのオレとアニキの関係が、昔からの橘兄弟の関係なんでしょうね」

哲也「いい意味で、1歳違いぐらいだと、ライバル的なところもありますからね。たとえば、バンドを一緒にやっていて、“コイツ、最近ダメだな”って思うようなときがあったとしたら、引っ張ってやろうか、ケツを叩こうかって計算しますね。兄弟っていうよりもメンバーなんでしょうね」

―じゃあ最後に、アニキにここだけは直してほしいとか、やめてほしいことは?

哲也「とりあえず、腰を治してほしい。医者に止められているのに、ライブで調子出ちゃうと、ジャンプしたりするんだけれど、こっちは見ていてハラハラしちゃうから」

ANNIE「ボクはずっとアニキのことは上に見ているから、アニキがどうあってもいいんですよ。それをずっと、下から見ていたいですね」

パチ・パチ・ロックンロール(1995年/ソニーマガジンズ)より

テキスト/大野祥之